概念体概説

※【著者解題】の概念体・架空の兄姉の項目を参照のこと。

2018.02.25初稿,2023.02.24改稿

 〈透明感〉
着装【※注1】人体名:不明
黒髪、黒目の少女の姿。腰まである長髪。原初の自然に対する感動に起因する概念体。とある湖の底で腐乱することなく沈んでいた少女の身体を見つけ、その湖の透明性に心打たれた〈透明感〉が”着装”したもの。老獪な口調。基本的には保守的精神の持ち主で、人間と心を通わせたり、その延長線上で魂の融合=”固着”に至ることには否定的。〈責任感〉とともに他概念体の監督者的立ち回りをし、場合によっては傘に偽造した対概念体用非殺傷性携行銃を所持・使用する。好きな模倣駆動【※注2】は飲酒、絵画鑑賞。物事の透明性の保持を重視する。

〈信頼感〉
固着人体名:オーガスト・ルー・リード
黒髪、黒目、褐色肌の男性の姿。身体的特徴としてはくせっ毛で眉毛が太い。生前の固着人体は政治家で、恋人に裏切られて暗殺されたのち、その身体を〈信頼感〉が貰いうけたという経緯を持つ。「オン」と「オフ」の落差が激しい。普段は禁欲的に責務に取り組み、私情を持ちこんだりマニュアルを無視した行動は嫌うが、勤務外での人間との交流は厭わない。非常に温情ある精神の持ち主。心から愛した人間について、詳細を語ることは避けている。
好きな模倣駆動は音楽鑑賞、派遣された時代の流行のファッションをチェックすること。ファッションセンスはやや奇抜。

〈達成感〉
固着人体名:ウェイン
(※作中では一時的にマーティン・フィルグッドという人間に着装している。)本来は青紫の髪、黄金色の目の男性の姿。はるか過去に滅びたある民族の、狩りの名手であった青年の人体である。黒いスーツの上にボロボロの茶色いコートを羽織っている。一人称は「俺」。責務の遂行とは別に探検や旅を好む。各地に部屋を借り、人間の生活形態を模倣する。いつも多忙で、”自己中毒”と呼ばれる、自らの司る感情活動への慢性的な渇望状態にある。人間や他の知的生命体とは積極的に交流するが、親交を深める前に軽やかに次なる目標に向かって移ろっていく。

〈浮遊感〉
固着人体名:テルテルテホュック
銀髪、銀目、青みがかった肌と、風船のように空中に浮きあがる体質をもつ女性の姿をしている。この女性身体はある時空に存在する特殊な人種で、固着後もこの体質は〈浮遊感〉の幻質と調和するため存続し、〈青い星〉で活動する際は、つねに地面から足裏が浮いた状態になる。模倣駆動のなかでは入浴、特に湯船に浸かることや海中遊泳等を好む。自由奔放なアーティスト気質の持ち主である。概念の特性上、現実界ではなく人間の意識の世界で活動することも多い。温和であるが、人にも物にも頓着せず、拘りと呼べるものが無いようす。テルテルテホュックという人名に姓名の区切りはないが、〈浮遊感〉は固着人体をテルテルと呼称し愛用している。

〈存在感〉
固着人体名:不明
なでつけた白髪、茶色の目、老眼鏡、口ひげをたくわえてステッキを手にした老紳士の姿。老眼鏡もステッキも本来は必要なく、人間の若者以上に鋭敏な動きも難なく行うことができる。人に相対する場合は、外見を意識した立ち居振る舞いや話しかたへ最適化させているようである。固着人体は「パラレル病」の一種である”突発性存在量時空間転移【※注3】”の患者であり、この人物は本来のどのような人間であったかを忘れてしまったため、「わたしは”在らざる人”である」という言葉をのこし、〈存在感〉への概念化(同化)による消滅を望んだ経緯がある。概念体のなかでは比較的若輩。

〈満足感〉
着装人体名:不明
銅色の髪、赤い目の男性の姿をしている。季節、気候に関わらず赤い襟巻きを巻いている。”駆動不全”気味で、慢性的な満ち足りなさに悩んでいる。学者的気質。時空層位学的手法で時空航路や時流のタイムプレートを独自に調査している【※注4】。時層調査中に”化石”化した人体を発見し、調査の名目で着装している。赤い襟巻きは経年劣化防止効果があり、”化石”に巻かれていた。欲求不満の人間に接触する機会が多く、いくら与えても底なしに強欲な人間の姿にうんざりしている。相棒は〈疲労感〉だが、概念体としての関連性は高くとも性格的な相性はあまり良くない【※注5】。言葉遣いには特徴がみられる。

〈親近感〉
着装テディベア名:ジェリー
黒のスーツを着た、クマのぬいぐるみの姿。タグには「JERRY」と記名、その下に小さく「Let me be your friend!(なかよくしてね!)」などの変動性の記載がある。友好関係の感度に関する概念体。ある孤児院で長年使用されたテディベアに子供たちの想念が宿り精神生命を得たところを〈親近感〉が着目し、着装へ至った。自立歩行が可能だが、誰かに抱きかかえられての移動も「やぶさかではない」とのこと。ぬいぐるみゆえにポーカーフェイスだが、多くの子どもたちから感情表現を学び、概念体にしては珍しく表情豊かで表現巧み。何者に対しても慎み深く紳士的な一方で、〈この世の摂理〉への忠誠心は固く、責務の遂行に妥協はない。

〈疲労感〉
固着人体名:エトア・パワン
一部に赤や桃色のメッシュが入った緑髪と、黄色い目をもつ女性の姿。身体的特徴としては体格が良く筋肉質。固着人体はアスリートであり、時走車レース競技の元選手。〈疲労感〉は人間の駆動の効率性に根付く概念体である。人間を疲れさせるという自分自身の幻質に無理解で、それを問題には思っておらず、いかなる時も活動的で張り切っている。〈この世の摂理〉を盲信し、忠実に責務を果たす一方、”駆動不全”気味の相棒〈満足感〉に対しては人間に引けを取らない思いやりの姿勢をみせる。好きな模倣駆動は運動全般。摂取する意味はないが単純な人間の模倣行為で栄養ドリンクを常飲する。

〈責任感〉
固着人体名:シャムレイ・ゴスマン
金髪、碧眼の男性の姿で、黒のビジネススーツを着用する。寡黙で重大な雰囲気を醸し出す、概念体のステレオタイプ。〈この世の摂理〉から〈透明感〉とともに全概念体の監督・統率を任されており、〈目撃〉(概念体を駆動不全にする特異な光線)を発する携行銃の使用を許可されている。銃は万年筆に偽造され、胸ポケットに挿されている。固着人体を入手した経緯について語ることはまったくなく、この身体の持ち主であるシャムレイ・ゴスマンに対しても表出する限りの感情表現はない。模倣駆動では音楽鑑賞を唯一好む。

〈爽快感〉
着装キャラクター名:NINZEN-EM610
“TYPE:HIGHNESS”
ヘルメット、ライダースーツを着用しており、マスクを外すと黒い短髪と目付きの鋭い顔貌の男性の姿であるとわかる。現実と精神世界を繋ぐリズムゲームのアバターキャラクター像に着装している珍しい概念体。TYPE:ZENITHという別タイプの同キャラクターに着装している〈疾走感〉という兄弟分同然の概念体が居り、「ブラザー・ゼニス」「ブラザー・ハイネス」と呼び合う。二体とも走破に執着するスピード狂で、幻質によって現実世界にゲーム内の通信ギミックを持ちこみ、ゲーム世界の設定のまま駆動するため、緻密な連携を実現している。キャラクターを介して人語の発話をおこなうため、ただでさえ表出しにくい概念体の表情活動はマスキングされ、口調は抑揚がなく流暢でない。

〈無力感〉
固着人体名:”サーヒルン”
黒髪、緑目の女性の姿。固着人体は老いて尚かくしゃくとした元軍人で、〈無力感〉に打ちひしがれる敵軍を目にして概念体の存在に興味を持ち、〈無力感〉と個人的な交流をもつに至った。サーヒルンという呼称は通り名で、軍役を引退してからも彼女が本名を語ることはなかったという。他の概念体と同じ黒いスーツ姿だが、固着人体との融合を意識してか軍服のような意匠が凝らされている。厳格な性格だった固着人体とは対照的にユーモアに富み、適度な仕事と優雅な余暇を好む趣味人的気質の持ち主。〈万能感〉とともにカードゲームに興じていることが多い。

〈万能感〉
固着:無し
〈万能感〉は人体に固着していない。青みを帯びた半透明の幽体で、手足の長いシルエットの人型である。黒いパンタロンスーツ、マント、シルクハットを身に着けているように見え、所作や口調はどこか芝居めいている。〈万能感〉を求める自己中心的でハングリーな人間に多く関わり、貪るような搾取を受けた経験を持つ。自身の消滅を覚悟する程の傷害を経験したために、概念体として保たれるべき純粋性が希薄である。斜に構えた皮肉っぽい態度で他者をからかい、本心を表出させることは滅多にない。本来、概念体は「責務に対して得られるテクノ以上の報酬を求めてはならない」が、〈万能感〉を与える代わりに対価を要求するなど相手を試し翻弄するような物言いをすることが多い。一人称は「ボク」。対極に位置する概念体である〈無力感〉についてまわる。

〈特異概念体〉

 〈絶望感〉

 固着人体名:抹消済み

固着人体は因果抹消”の重罰を受けた女性身体。白い髪、灰色の瞳。性格は慇懃無礼。〈透明感〉を気に入っており、追いかけ回す(曰く、「わたし、メロメロなのです」)。自由奔放。概念体個体で唯一、白いスーツ姿であり、〈絶望感〉自体が完全な〈概念体〉ではないことが示される。

  →〈時空測量士〉

  〈この世の摂理〉の上層、母機である〈創世機〉の内的世界から派遣されたエージェント、あるいはエンジニアたちの下位世界における総称。回帰するこの世の始まりから終焉までを記録し、次世界(ジュリア世界)へ転移する存在量の総量を観測、記録する。時空測量士として公に記録活動をする者、正体を隠し精神生命体としてこの世の運航を影で操作する者など役割はさまざまで、特徴として全身に色彩がなく明度のみが表出される。作中に登場する空間凍結された時空測量士は、〈概念体〉に自らが採取したデータを売り渡した。その理由は不死からの解放だという。身体性を限界まで失いながら存在量をインナースペース・スーツに封じ込めて生き長らえていることを、苦痛に感じる個体も居るようだ。

注釈
【※注1】 「着装」とは、概念体が魂の失われた人体や物体に宿ること。魂とは、作中では人格、精神、意識、記憶、意思を指す。「固着」とは、深い絆で結ばれた人体との魂の融合である。
【※注2】 人間の生命活動や生活営為の模倣によるタイム・リフレックス(時素)の生成で、精神生命体としての力を得ること。
【※注3】 前触れなく時代も場所も越えてまったくの赤の他人になり変わってしまう原因不明の奇病で、根本的な治療法は存在しない。この世を造りだした〈創世機〉が時象の整合性を保つためにおこなう”揺り戻し活動”が遠因ではないかと考えられている。
【※注4】 時質学では物性を帯びた〈時〉は地質とおなじく「累重の法則」に従っているとされ、同一地点における〈時〉の層は下方にあるものが古く、上方にあるものが新しいことを示す。〈満足感〉は、本来は時の運行作用によってつつがなく流れていくはずの時粒が物性を得て、「情念」「怨念」「執念」等の人間の感情を吸収し時盤を沈下させ、時空の歪みを引き起こすのだと仮説を立てている。また、タイム・パラドックスの影響下で時空間干渉壁の狭間に閉ざされ時間的流動が不可能になった存在を”化石”と呼ぶ。
【※注5】 関連性の高い二体以上の概念体が同一の〈弟妹〉に対し共同で責務にあたるよう、バディ(グループ)の結成を指示される場合がある。分かりやすい例は〈安心感〉と〈信頼感〉で、概念体内でもっとも評価されているバディのひとつ。