執筆期間 22.4.28-22.5.13(修正 22.5.14)
〈MTML〉
〈HEAD〉
〈NO EXISTS〉
〈FORM PARALLEL METHOD
=“META TEXT”〉
〈SECRET〉
★これは、MetafictionText Markup Languageが定義する、 Puzzlyze主体の簡便な口述筆記です。
★ここは、ノーエクという現象ありきで成り立つ「
★深く考えると世界が崩壊するため、
★本記録は、secretタグ内のこの文章を除き、
★evyによる介入・
〈/SECRET〉
〈/FORM〉
〈BODY〉
Side.SIZUKA
12月31日、正午。
場所は渋谷東急イン(現・渋谷東急REIホテル)の一室。
駅から近く、不必要に気取っておらず、設備が整っている宿をと、
5泊(12/30〜1/3)の日程だ。5連泊割引き・
フェス後はふたりで初詣と楽器店やレコードショップの初売り。
「そういやもうちょいしたら、小西さんたちと会う約束したけど、
寝坊してレストランの朝食にありつけず、
ぼくは露骨に顔をしかめたと思う。
「誰や小西さんて」
「緑色の髪の派手派手なひと、居ったやん。てか話したやん」
「おれは話してない」
「……無理そう? 悪い、じゃあおれだけで行くわ」
べつに一緒に行くのはかまわない、と答えた。
知らない人間とはできれば接触したくない。
でも、もう五十鈴が約束したんなら仕方ない。約束、
「肉まんだけやとフェスまでもたんな」
「“たち”って言ったか」
「あー。小西さん、……スイ?さん、……東さん、やな。ほら、
スマホを見る。「はい!」とか「りょーかいです!」
ため息が漏れる。弟は苦笑した。
「まあ押しは強いけどなあ。たまたま、
「何の約束」
「あー……? たぶんどっかしら喫茶店とかで昼たべて、
「喫茶店」
「ちゅうか、まあ、マックとか。なんかあるやろ、年末でも」
「……、さっき食ったばっかやげ」
飛び入りの予定、急な時間変更、知らないひと、ぜんぶいやだ。
しっかり着込んで、とりあえず外に出る。寒い。
……前に、ぼくは弟にボソリと大事なことを尋ねておく。
「なあ、何きっかけ」
「小西さんがなー、
以下、こういうことらしい。
〈REMINISCENCE〉
GwHの出番が終了した後。
偶然、本当にたまたま、ふたりの独り言がぴったり重なった。
「「やっべーーーー……」」
そして、鷺山五十鈴と小西あきらは、互いの顔を見合わせた。
「……ですよね!?!? ゴーヒュやっばいすよね!!(興奮)」
「あれはやばいっすね……(ドン引き)」
いちおう声は抑えるよう努力しているらしい小西は、
「やってくれましたよね!!(歓喜)」
「ああ……
「びっくりですよね! そらなにしとんだら!?ってなりますよー!! てか実在した!!」
聞き慣れたイントネーション。GwHを知っているのか、
「中部のほうからですか」
「名古屋すよ! もしかして……」
「おれらは岐阜です。音楽活動は名古屋で、まだ全然なんですk」
「名古屋っ! っで音楽やっってんすか!? すっごいすね!! おれら!? バンドすか!?」
「ちょ、あの、ぜんぜん大したことないんで、声抑えて」
そのまま連れを紹介するという流れになり、五十鈴はさらに、
先ほどのGwHを彷彿とさせる衣装の女性と、
やべえんじゃねえかこのひとら。
無論、口にも表情にも出さない。
「初めまして」
「初めまして。よろしくお願いします」
「こちらスイさん! あずまさん! 自分ら3人で来てますけどもう1人? てかもう1家族? ゴーヒュ仲間が居てー」
おいおいやべえよ。しーちゃん助けて。
得体の知れない音楽集団の、
「その今日来れなかったひとがドラマーで、
ドラムス、キーボード、サックス……
それらの単語に鷺山五十鈴の思考は鈍る。いや、
「自分ら、集まるといっつもただの飲み会になるんすよねー! 曲とかも作れんくて!」
「……ちなみに、えーと」
「あ!小西です! 自分は、
なんっっも楽器できません!!!!」
「あ、はい……(名前を聞きたかっただけなのに)……
やる気はあります!
「えっえっご兄弟で音楽ってどんなっすか!?」
「まあ、コニーさあ、そんな迫らんでも。すこし落ち着きゃーよ」
「いや……大丈夫ですよ。いちおう、兄がギターボーカル、
「凄いじゃありませんか。
ネオンブルーの髪のひとが意外に(!)
「ほんなら、あとで────」
〈/REMINISCENCE〉
なるほど、理解した。
「ほんでおれもあの場に呼ばれたんか」
「うん。でもしーちゃんは昨日の感じで居ってくれたらえーから。
「なら、いい」
それなら、いい。
ぼくはなんとなく押しころしていた息を吐いた。白く生温かい息。
弟がなにをしようと反対も邪魔もしない。だけど、今日は「
驚いたけど、それならいい。おまえの直感を信じる。
「掃除をお願いします」の札を表にし、
集合は忠犬ハチ公像前。
例のひとたちも、さすがに厚着してやって来た。
ぼくは縮こまって、しんがりをぽつぽつ歩く。五十鈴は、
ただただ、前方で繰り広げられる会話を聴くともなく耳にする。
「ちなみに小西さんたち、もう周辺いろいろ見ました?」
「いや、
「みんな寝坊したからね」
「あはは、おれらと同じっすね」
寝坊したのはお前だけやが。
「
「え、じゃあけっこう、周辺くまなく歩いた感じじゃないですか」
「名古屋のQUATTROしか知らんかったでねー。
「案内してくださりありがとうございました、コニーさん。
「でもお金ないんで、言うほどでもないんすよ……」
「ずっと散歩してたら3人とも冷えたんじゃないですか?」
「そーね、どっか入りたい。
「……四重奏?」
「それ言いたいだけやん。でも良いっすねー、レトロな喫茶店」
あれこれと指差しながら先頭を歩く緑髪のひとは、
「チェーン店とかは営業してますね!あ、ほら、
「あれ、手前のサーティーワン見てたんじゃないんや(笑)」
「う、
「とりあえずアルブレヒトの方目指していきますか」
文化村通りの交差点をスペイン坂方面に渡る。
紳士っぽいひとがあごひげを撫でながらキョロキョロしていた。
「
「公園通りの、カフェ・アプレミディ? あそこが最近(※00年代半ば)
「あー良いですね〜。
「ねー、さすが渋谷。お洒落なお店も多い」
「けど……」
「……さむ……」
フェス前にこんなに活動する3人はすごいエネルギーだと思うが、
ノープランで外を歩くからこうなる。
ここは渋谷センター街十字路。
結果。
「ちょうどいいところにマック神!」
「結局マックか〜安定のマックとも言えるけど」
「確かに、
「マジで引率の先生じゃんね東さん」
「窓際眺め良いなー。
「カウントダウンか〜!そらーあちこちでお祭り騒ぎでしょ! 年越しそばならぬ年越しマックっすけど」
「まあ、落ち着いた茶店で駄弁り始めると閉店まで気付かんし、
「笑いじゃ済みませんけどねそれ! あっ五十鈴さんのお兄さん、そんだけで足ります?」
「…………はあ」
各自注文した好みのバーガー、ポテトやナゲット、
ほとんどの人間はホットコーヒーを飲み、
雑談に一区切りつけ、腰を落ち着けて話すのは、
「ではようやく本題! まずはゴーヒュの話ですけどー!“祝宴”マジ祝宴」
「えーてそれはもう。お宿でさんざん語ってきたがん」
「……まあ、まったく知らなかったおれらからしたら、
「観測者の存在すなわちGwH実在!それに尽きますかね! はいじゃあ次、ディスアスことTHIS EARTH IS DESTROYED!! あれも激ヤバでした!!」
「あれって? “昨日の唄”?」
「曲名覚えてないすけどザァーーーッ!!!
大いに同感だったので、うんうん、と声には出さず、
「
「シューゲイザーかつドリームポップ? ボーカルだけ溶けそうに甘くて幻想的やったわ」
「地球滅んだなあって絶望しながら天使の歌声幻聴した感じ」
「“だれもいない国”ほんと好き」
あー。聴く人間によってイメージが違うのが面白い。
「僕は自分で弾くギターといえばアコギの頭なのですが、
「えっと、
「僕はネットでたまたま見かけて。
「つまりディグってたら偶然? あんなに調べたのに……」
「東さん」の語り口は、あれだ。信頼できる教師のそれだ。
「
「スイさん、できれば正体をつきとめたいと言ってましたね」
アーティストの個人情報を知りたいタイプのひとか。
ガ ラ パ ゴ ス ケ ー タ イ を ぱ か っ と 開 く 独特の音がする。
「うん、
「なんか情報ありました?」
「何も。滅んだ地球みたいにおそろしく過疎ってた。
「一瞬見ただけのURL暗記したんすか? 素直に引く」
「確かに音源には兄というクレジットがありましたね。……“
「明らかにディスアスこじらせたひとのスレタイっすよね。“
「シェイク飲んどるでだわ。
「え〜その画像も無いんすか?」
「保存したけどフォルダから消えたー。前(※90年代)
「アレ?」
「スイさん」はふうと溜め息をつき、ガ ラ パ ゴ ス ケ ー タ イ を ぱ た ん と 開 じ た。
そしてなぜか周囲を気にする素振りをし、急に声をひそめた。
〈OPAQUE〉
「……ここだけの話、GwHの身元は探ろうとしたら〈EVY〉(
「はあ……?」
「Forget Number 8910攻撃。攻撃者の防壁が現在(※201X年)
「というウワサっすよねー!都市伝説!」
「急になんすか……?」
「……(犯罪やん……)」
「ファンの間でまことしやかに囁かれてるんだけど、
〈/OPAQUE〉
「「はあ……??(頭がおかしいのか?)」」
「でも、それだと今回みたいなフェスの説明がつかないんすよね〜
「そこなのよ。……鷺山さんたち、
「わはは、でたスイさんのいつもの。
「コニーが教えてくれたんやん……
そういうわけだもんで、とにかくよろしく」
「……(真剣な形相だ……)」
「いや、よろしくも何も、
「やあ、戻りました。皆さんどうしました? 神妙な顔して」
いつのまにか姿を消していた東さんが「皆さんもお手洗い、
「じゃ、私も行っとこっかな」
「自分も〜〜お腹冷えた!シェイク&ホットパイ作戦失敗」
「おばか」
……やっぱりこのひとたちやばくない?
やべえかもしんねえ。
ぼくら兄弟は目を合わせて無言の会話をした。全員揃ってから、
「……えっと、
「ただの薬剤師だけど」
「アングラ事情に詳しいスミ入ってるただの薬剤師」
「黙っとき。で、
それには一同頷く。
ゴーヒュが何とか、
ぼくらも、交互に手洗いへ行き、頭の中を整理した。
感想会は雑談を挟みながら何事もなかったかのように続く。
「とにかく言いたいのは、
「ですねえ。
「
「シューゲイズの申し子なのかもしれん」
「そういやああいう特殊なドラムスとか、
「ジュンちゃん練習パッドでもう基礎練してるらしいですよ。
「若い子のシューゲイザーときくと、
「教師の勘ですか。“そういうの”って、
「そんなたいそうな。
……いや、このひとたちがやばいわけじゃないかも。
コーヒーをちびちび啜りながら観察する。
「そっからの環よ」
「環めちゃ良くないですか。おれも志樹香も大好きなんですけど」
「ああ、なんかねえ、香ったねえ。
「お坊さんでしょ!どうしてそれについては確信ないんすか。
「音源でも“Edgeworth-Kuiper Belt”いちばん好きです……宇宙が見える」
「私はお花のMC謎すぎて笑っちゃった」
「お土産に頂いていいとか。粋なはからいでしたね」
「あ、志樹香さん?ってそういえばどんな音楽すきなんすか?」
環も好き、というワードから気になったのか、
「……、…………」
「んーと……基本はロックみたいっすよ。THE BACK HORNとか。
「へー、志樹香さんと私ら音楽の趣味合うかも」
五十鈴が助け舟を出してくれるのはいつものこと。でも、
このひとら、言ってることは時々おかしいが、意外に“ふつう”
「この勢いで後半戦いこまい! COUP DE FOUDRE、クドフー!」
「クドフーはみんなでラウンジで聴きましたね〜」
「いやー飯と酒が進むバンドだった。
「コーラスだけの曲とか面白かったすね! 詞で多くを語らないって感じでした!」
「ん? コニーちょっと寝とったやん」
「寝とらん寝とらんて、何言っとんだら!」
五十鈴がだしぬけにふっと噴き出した。
「さっきから、ほんと雑な感想会じゃないすか」
「まあ読書感想文じゃないですから」
「たしかにクドフー、寝る前とかに聴くの良いかも。
「めっっちゃ分かる。
「ベース複数お持ちなんですかね? 記事など見ているかぎりでは」
「おれもそう思ってるんですよねー。
「風来坊って。なんか“謎多きひと”率高いっすよ、このフェス…
「かもね? で、みんな大好きG.U.L.」
その場がなごやかな笑いで満ちる。ぼくもすこし、笑った、
「みんな大好きじーゆーえる!ヤアヤアワレコソハ!」
「やめときゃあよ? 一生懸命喋ってくれたんやからね」
「馬鹿にはしてないっす!音楽とのギャップが良かったんす!!」
「たしかにメンバーそれぞれ第一印象とのギャップがすごかった。
「演奏はプログレッシブ・ロックの認識で良いのでしょうか」
「改めて調べたけど、
「でも盛り上がってめちゃんこ良かったっす〜! 今度は自分がロアンさんとこの言葉勉強してツアー行きたい!!」
「そしたらコニーがカタコト喋る番だね」
こんな癖が強くて、まったく別々の音楽好き同士が、
「物販でようやく買えたG.U.L.の3rd聴いた、良かった…
「スイさんがそこまで浸るなら間違いないっすね、G.U.L.
「え〜そそれでは、いいよいよSIGNALREDSですががが」
「五十鈴さんちょっと様子がおかしいすけど、大丈夫すか?」
「ダイジョウブ、イノウエサンノベースカッコヨカッタデス。
五十鈴が大丈夫じゃなくなってる。生唾を飲み込む。
「……大ファンで」
「なーる。
歳? そういえばたしか、ぼくも昨日同じことを考えた気がする。
「ちょっと自分、
「私変なこと言った?」
「……ん?いやスイさんは正しい?! 自分いまなんて言いました?! 頭こんがらがってきました」
「いや、おれらもなんですよ。
五十鈴が状態異常から回復した。
「ちょっと冷静になってみんなで考えてみましょうか……? そもそもディスアスや環も、」
「あ、これだ。またこの画像」
「なんです?」
ピアニストらしい指先の動きで ス マ ホ をタップ、スワイプしていたスイさんが画面を見せてくる。
https://privatter.net/i/
──〈おいおい、キミたち! 野暮なお喋りはその辺にして、お祭りの時間はもうすぐだぜ(笑)
「…………なに?」
「画面真っ白でなにも見えないですよ」
「え?ウソ」
「ていうか、誰かいま笑いました?」
「そうだら、時間は? まだ大丈夫?」
「16時開場でしょ。まだあと少し話せるよ」
いくら頭をひねっても話が進まないので、
「小澤さんの声が良いのは本当にそう。
「何しとっても格好よくて様になるんだらー。ずるいっすよー」
「一方、パーカッションに注目すると、
「詞の面でも海外文芸が取り入れられて、
「やべえ、自分、知性教養のある会話にはついてけねーっす」
「でも最終的にシグナルは?」
「でれかっけえ!!!」
「(笑) うちのカンザキさんもやっぱ引っ張ってくるべきだったかなー。
「年末年始は博多にいらっしゃるんでしょう。
「子育てしながらドラムス一筋でやっとるんだで、すごいわ。
「あ……う〜〜……」
今まで賑やかにはしゃぎ散らかしていた小西さんが、
「自分はー……やる気だけはあって、
スイさんが小西さんの背中をぽんと叩く。
「まあ、焦ることないで、好きなことなんでもやってみゃあ。
「そうですよ。年齢も、プロもアマも、
「そっすかね……? そんなら良かったっす!!」
2人に微笑まれると、不安げな若者の顔はパッと消えて、
ぼく自身の姿が、五十鈴の姿が、
それが、今おもえば初めての本当の共感。
「あと少しなら大丈夫とか言ったの誰」
「スイさんでしょ! 今日のセトリ予想とかし始めるから〜」
「それは話に乗っかったみんな同罪ですね」
案の定、開場時刻がギリギリに迫り、全員慌てて席を立ち、
「
「ゴーヒュ枠って? 意味不枠ってことですか。
「五十鈴さんけっこう容赦なくもの言うよね。
「2人とも急にどうしたんすか? 仲良きことは美しきかなみたいな雰囲気じゃなかったすか!?」
「コニーさんあれはね、大丈夫、じゃれあってるんですよ」
「
坂を登るので息が切れる。
「フェス終わったらまた集まりましょ! あと自分のことは気軽にコニーって呼んでください!」
「私のことも呼び捨てでえーで。
「楽しみにしています。でもまず今夜のフェスを、
「よいお年をっ!」
同じ建物へ入るが、整番の関係上3人とはここで別れる。
「たのしかったな」
五十鈴が笑っていた。
しーちゃんは? と訊かれる。
「たのしい。たのしみ」
現在進行形。楽しいは続いている。
そっか、と五十鈴はつぶやいた。
「なら良かった。行こか」
ぼくたちはここに居て、なにかを見つけたかもしれない。
〈NO EXISTS:NOW HERE〉
〈TO BE CONTINUED〉
〈/BODY〉
〈MTML〉
〈EVY:WATCHING〉
・ ・
〈/EVY〉