真綿の星にはもう還れない - 1/19

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 〈この世の摂理〉へと繋がる唯一の、我らがなつかしき時空航路。あらゆる時象の影響から隔絶するため、一般時空航路を経由する定常駆動法で辿り着くことはできない。我々概念体が保持するワープスポットだけが唯一、〈摂理〉へと直結する。

 色彩のない波動が一定周期で出現し時象を洗い流す〈幻想野〉の白砂域。私はその防波堤に立っていた。存在者の正気を揺すぶる純白の衝撃波が伝わる。

 私は同類たちを待っていた。数体の同類と合流し、衝撃波に注意しながら次元の壁を蹴った。航路に立つと、久しく見なかった同類の姿ばかりだった。皆それぞれに分身であるマテリアルをこの世の幾万もの場所に飛ばしている。それらはオリジナルと繋がっていて、私達には、どれが本体なのか分かる。揃っているのは、皆オリジナルだ。珍しいことだ。

 我々は〈この世の摂理〉の前に立った。大いなる光が降り注いでいた。

──トゥア・ロー民族の感情を回収後、全概念体のパラディグニティの総量を投資し……──

──時空塵排出オリフィスへのトランスファーを実行せよ──

 〈摂理〉は我々の製造主だが、我々は〈摂理〉を目にしたことがない。眩しい光の向こうに存在するのが何ものなのかを見知った概念体は居ない。精神生命体なのか、情報集合体なのか、幻想構造体なのか、神と呼ばれる伝説的存在なのか、知らない。知らぬが、我らが父ともいうべき存在だ。被造物である我々は、指令を了解する。

「身を削りながら情報を運んで……運んだ先へは、ゆけないのか。飢えて死ぬのは苦しいだろうな」

「体験したことのないことを無闇に恐れるのは止めたほうがいい」

 我々は小声で短く語り合い、互いを見合って頷いた。

「では始めよう」

「始めよう」

「始めよう」

 誰かが言い、呼応するように皆がそう口にした。