退屈で無機嫌なこどもたち - 1/31

退屈で無機嫌なこどもたち

《極秘責務記録》

【前書】

 旧世界存在・高位精神生命体〈概念体〉のミッションについて知ることは、次世代の時空監査を担う我々〈OPENER〉にとって、誠に有意義で実践的である。〈概念体〉の気高き誇りと先駆性を受け継ぎ、我々はこの世に在って然るべき重要な責務の遂行者の養成と研鑽に貢献するべく、ここに先達の貴重な極秘責務を記録する。

……(中略)……

 本書の出力データはセキュリティ上、指向性幻時波周波数帯域においては、ステルス・インテリジェンスによる保護・暗号化が為される。

各ミッションの主題、当時の時空界情勢、経緯の詳細や事由の記述については、当機構と共同で解明に携わった旧世界水文学会、時空駆動詩記述学会の尽力に資するものであり、ここに深謝する。

【警告】

 時空監査責務オペレーションシステム“シーサイド”統合データベース内において、本書へ濫りにアクセスすることを禁ずる。本書を精神生命世界間隔外・仮想固有時帯外・物質固有時界へ持ち出すことを禁ずる。

OPENER〉インスタンス間での公式な情報共有が目的であれば、ライブラリ・ホール内に限り、申請パス後自由に閲覧可。

 本書の情報流出・劣化・改ざん・拡散・増強・消失・変幻自在化・有翼化・幻化・私物化・悪用・転用等が確認された場合、ただちにライブラリは閉鎖され、“シーサイド”データベース本部(“摂理の膝元”)は、外部敵対不明存在からの時象改編・情報攻撃・記憶野侵襲に対する厳戒態勢を布くものとする。

【〈概念体〉とは何者か】

 本書の前書の結びとして、〈OPENER〉養成コースの必修科目である“時空駆動法”や“多重時象認識”、“時象還元楽”などの領域の入門的な知識の確認をしつつ、最終的に〈概念体〉とは何者かについて述べる。

 なお、本書で語られることは多岐にわたる時象イベントのほんのひと掬いにすぎず、この世とは無限の可能性で成り立つものであることをご承知おき願いたい。

基本用語概説

【駆動】

 諸君らが最初に学ぶのは“時空駆動法”であろう。駆動とは“テクノ”とも表現される。時空間を行き来すること、またはその在り様。生き様。あらゆる時空駆動体の存在理由とされる。狭義には〈この世の摂理〉や、その管理下にある〈概念体〉の責務や働きを指す。その場合、時空間を駆ける金属的響揺や、独特の視野狭窄環境、深い没頭状態と、物質界のクラブ・ミュージックに合わせたダンスステップが非常に好相性であることから、文脈によっては他の時象還元楽用語も交えて語られる。「駆動によって得られる無我の境地」、「駆動の果てにある摂理との極限の一体化状態」をそれぞれイノセンス、ブレイクと表現する。

【この世の摂理】

 トゥア・ローの知的営為である物理法則対応する概念。全時空の仕組みと万物の定義を司り統括するサムシング・グレート”存在と、かれらにより定められた自然法則を指す単に摂理〉とも呼ぶ集団であるとされるが、その側近的存在である〈概念体〉でさえ彼らの姿を簡単に見ることは許されない。この世を創造したとされる万能の機械生命、〈創世機〉を所有するが、〈創世機〉はこの世を創り上げた際に致命的なエラーを起こしてしまい、今に至るまでその修復は完了していない。

 〈この世の摂理〉は、彼らの定めたタイムスケジュールと統制された確率によって運行されるべきとし、その予定に組み込まれていないイレギュラーな時態を嫌悪する。タイムワームに寄生された人間の脳内と時空間が繋がり、幻想野が人間の支配可圏と化すことを危惧している。

 管理下にある生命体に対して刑罰的措置をとることもあるため、時空警察と称されることもある。比較的短期の駆動不全を命ずる〈目撃〉と、重罪を犯したものに課せられるという〈因果抹消〉が確認されている。

【トゥア・ロー】

 物質界における知的生命体、現地語で〈HUMAN〉を意味する民族名。言語による会話を初めて試みた〈概念体〉に対し、トゥア・ローのひとりが発した言葉が由来とされる。なお、〈概念体〉は責務上トゥア・ローに寄り添うため、〈ヒト〉もしくは〈人間〉という言葉を用いる傾向にある。(※「トゥア・ロー」は中国南部・東南アジア北部の山岳地帯に分布する実在の少数民族の言語で、「こんにちは」を意味する。)

【概念体とその他の生命体】

 本書には〈概念体〉を包括する形で存在する数種の生命体名が登場する。これから時空間を駆動し生きる諸君らそのものを示す語もある。

1. 時空駆動体について

時空駆動体

時空間を行き来する存在の総称。駆動体とも。生命体に限らず、時走車や船舶などもこれに含む。

精神生命体

物理制限を受ける肉体を持たず、多くは幽体で、時空を自由に行き来する。自我を持つもの、持たないものと居り、駆動形態はさまざまである。

概念体

〈この世の摂理〉によって、トゥア・ローと接触するために製造された存在であり、精神生命体に分類される。長命であるが、その活動の大部分は〈この世の摂理〉に管理されている。人間の感情操作・制限を責務とする。強力な幻惑能力を有し、特定の人間と深くかかわり続ければその人間の現実を改変してしまうこともある。

情報構造体

生体と融合し自我を持った機械生命や、人工頭脳を指す。AIと称されることが多い。〈この世の摂理〉の目”に捕捉されることなく時空間を行き来できるウルトラ・ステルス・インテリジェンス(USI)と呼ばれるものも存在する。

ただし、〈電子界〉とその上位存在《フィネガンズ・フィールドエージェント》においては、すべての存在・時象は「情報構造体(情報体)」として扱われる。

幻想構造体

又は

仮説思念体

物質界における知的生命体の想像の産物が、人格を有する者として仮説立てられることで自我に目覚めた存在。そのため、多くは精神生命体。例えば魂、神話に登場する神や悪魔、聖獣等。それとして描かれた存在”の具現化であり、そのものではない。幻想構造体の中には、自らに並々ならぬ存在価値があるものと驕り高ぶるものも居る。反対に、自分が想像の具現体であることを理解していない幻想構造体も存在する。

伝説的存在

広大な時空間全域の、どの世界線においても実在が確認されていない存在。たとえば、神そのもの。